ちょっと街へ出てみよう。
「個」と「社会」それぞれに心を寄せながら、自分らしさを大切にして生きる方々に会いたいな。
そんな思いで始める「おじゃまします!」のコーナーです。
記念すべき第1回目に訪ねたのは、安曇野市堀金にある「NPO法人 WHITE CANVAS」さん。
多多のお客様である看護師の上野さんのお勤め先であり、昨年開催された野焼きで作った土器の展示イベントのご案内DMを上野さんがお持ちくださったのが、WHITE CANVASさんを知るきっかけとなりました。
ちょうど多多3周年を迎えた2024年2月22日。
4年目の第一歩として、WHITE CANVASさんを訪問しました。
「おじゃましま〜す!」
パッと目を引く赤い引き戸を開けると、迎えてくださったのはWHITE CANVAS代表の石岡享子さん。
鮮やかなピンク色のワンピースが何とも華やか。
そして玄関の棚の上には可愛い手縫いのお雛様。
心和むお出迎えに嬉しくなりました。
WHITE CANVASさんは、肢体不自由や医療ケア、行動障がい、言語でのコミュニケーションが難しい方々など、様々な支援を必要とする大人のための働く場所である「生活介護事業所TIME WARP」を運営していらっしゃいます。
ものづくりや芸術活動を重ねて日々の充実を味わいながら、特性を生かした商品づくりを通し、社会との繋がりや関わりを育む場所となることを目指して活動中とのこと。
真っ白なキャンバスから広がるものづくり。
ワクワク、ドキドキ、覗かせていただきました。
(※文中の利用者様のお名前は、お一人を除き、ご紹介順にアルファベットで表記させていただきます。)
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ギャラリー&ショップ
まず案内してくださったのは、ギャラリー兼ショップにしようと準備を進めていらっしゃる部屋。
利用者さんたちが作られた作品がズラリと並べられています。
石岡さんが説明してくださっている途中、ご自身の作品を見せに来てくださったAさん。
よくぞここまで!と驚くほどに骨格を捉えた、Aさんが造形した人の顔の数々。
アルミホイルに紙粘土、陶土に油粘土。
様々な素材で作られた顔・顔・顔。
中にはサングラスを掛けていたり、顎や舌が動くものも!
造形から伝わるエネルギーにびっくりしたり、ユニークな表情に笑ったり。
その伸びやかな創作に圧倒されました。
ギャラリーの窓辺には、柔らかな色彩の絵も。
ペンを持つとキャラクターとロゴを描くけれど、絵の具を筆を持った時は点々で絵を描くBさんの作品です。
その点々はいつも濁らず、優しい色をしているのだそう。
TIME WARPでは自由創作の日も週に一度設けられていますが、利用者さんたち一人一人が好きなことや得意だったりすることを活かした上で、販売できるものを…という部分では職員さんたちのデザインも取り入れながらの制作もしているそうです。
縫い目に対する思いをどう昇華してもらうか。
出来上がったアート作品を、どんな風に商品にするか。
職員の皆さんは、利用者さんたちとのものづくりが商品としての社会的な価値につながるよう、試行錯誤しながら日々心を配られている、とのお話でした。
そしてもう一つ大切にしているのは、ものづくりをすることが彼らの辛さの表れである場合があることもにも配慮すること。
作り続けることで強迫観念を助長しないように、そのためのケアも学び続けていらっしゃるそうです。
TIME WARPの嘱託の精神科医である先生は、利用者さんのお薬とケアのバランス、障がいの特性とものづくり作業・支援のマッチング、そして活動で使う画材や素材の相談にも乗ってくださっているとのこと。
お話を伺いながら、医師、看護師、作業療法士など、色んな専門職の方々との協働で活動されていることも垣間見えました。
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皆さんの作業スペースへ
ギャラリーを見た後は、お一人お一人の作業の様子も見学させていただきました。
淡く染まった小さな紙を、卵の殻にそっと貼っていたCさん。
玄関先には、その美しい殻のモビールが飾られていました。
途中、私たちが外のスペースで石岡さんのお話を伺っていると、「Cさんが寒くないか心配していますよ〜」と職員の酒井さんが伝えに来てくださいました。
優しさにジーン。。。
部屋に戻ると、小さく丸めた布でポンポンと、優しく升目を染めていらっしゃいました。
どんな作品になるんだろう。
この日は縫い合わせた端切れを丸く丸く並縫いしていたDさん。
よく見ると、何段も円を描くその縫い目は、縦方向にも揃っています。
糸の引き加減も均一で、思わず撫でたくなるような布の表情に。
糸の色もご自分で選ばれるDさんは、織物も得意なのだそうです。
きっと几帳面に織られるのだろうなぁ。
機織りのその様子もいつか拝見してみたいです。
先ほどギャラリーで顔の造形作品を見せてくださったAさんは、ストーブの側のキャンピングチェアにゆったりと座り、
指を動かしながら粘土を形作っています。
Aさんの手の中で、みるみるリアルな骨格が浮かび上がってくる粘土。
何も見ずにスルスルと、顔の作品が生み出されています。
それぞれに心地よい場所で
昼寝をしていた押入れから出ていらしたのはダイゴさん。
几帳面にノートに綴られた記録を見せてくださいました。
軽い筆圧で書かれた、文字のような記号のような羅列。
罫線の中に温度が生まれたそのノートの傍には、ご自分で淹れたコーヒーとマグカップ。
眺めるこちらも心が解れるような時間です。
ノートを綴っている机の前には、こちらもダイゴさんが書かれた枕草子の冬の一節。
訪問した2月にぴったりの、寒い季節を謳う言葉。
どこか暖かさを感じる文字に惹かれます。
そしてギャラリーの隣の個室で制作していらしたのはEさん。
「おじゃまします〜」と言って、お部屋に入れていただきました。
ここにも押入れの中のドラえもんルームがある!
あちこちにリラックスできるように工夫されたスペースがあるのですね。
Eさんは土偶をモチーフにした刺繍を見せてくださいました。
この刺繍は天使に変身する予定とのこと。
辛いことや悲しいことがあった時にそっと寄り添ってくれるようなお人形。
眺めているだけで心が和みそうです。
TIME WARPには今11人の利用者さんが通われていて、日によって変動もありますが、毎日5〜7人くらいの方が活動されているとのこと。
この日は職員さんの他にも、ミシンで縫うボランティアの方もいらっしゃっていました。
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大切にしたいこと
NPO法人であるWHITE CANVASさんは、市町村+都道府県+国による障がい福祉サービスの介護給付金により運営していらっしゃいます。
また、助成金などを取得しながら施設の整備やWHITE CANVASさん独自の取り組みを補っていらっしゃるとのこと。
訪問したこの日はそのうちの一つ、離れのトイレをご紹介くださいました。
休眠預金の助成事業で作られたのが、車椅子の方と介助者の方が入れるバリアフリーのトイレ。
コロナ禍で感染症対策の強化として、重複障がいをお持ちの方の受け入れのために助成金が下り、作業スペース側とウッドデッキで繋がるトイレを設置できたそうです。
その他にも、WHITE CANVASさんが発行するリーフレットで施設内のバリアフリー工事や、福祉車両の助成、イベントの企画・開催の助成など、様々な支援を受けながら運営していらっしゃる様子を紹介されています。
一部多多にもいただいていますので、宜しければご覧くださいね。
TIME WARPには、様々な障がいをお持ちの方が通っていらっしゃいます。
支援も設備も、その都度の状況に合わせて変わっていくので良いと思っているんです、と石岡さん。
分かりやすい答えや形が無いからこそ、その場所に集まる皆さんの毎日が生き生きとしているのかもしれません。
生き物のように変化していくTIME WARP。
想いや願い、自分自身の心を開放できる場所を持てた時、誰もが幸せを感じられるんだろうなぁ。
インプットである毎日の食事、運動、畑での作業などの豊かな生活の真ん中に、アウトプットであるものづくりがある。
そんなバランスを考えながら足元の幸せを大切にしていきたい。
ゆっくりと言葉を紡ぐように、石岡さんはそうお話しくださいました。
職員の皆さんとボランティアの皆さんが繋ぐ手に包まれて、お一人お一人が心地よく、のびのびと活動していらっしゃる場所。
TIME WARPは、そんな景色のように映ります。
NPO法人WHITE CANVAS職員の皆様、そしてTIME WARP利用者の皆様。
おじゃましました!